多変数の最適化過程に基づく配向異性をもつ自己集合体の選択・増幅に関する論文(#112)を発表しました。
発表論文:Selection of self-assembled configurational isomers from a dynamic library via a multivariant optimization process. H. Chen, T. Abe, R. Chai, S. Hiraoka* Nat. Commun. 16, 4387 (2025). [DOI: 10.1038/s41467-025-59181-8] プレスリリース [Link]
特異な機能をもつ分子が自然界でいかにして選択されるかは、分子の進化過程に対する深い理解や物資開発の効率化に寄与すると考えられます。目的とする機能をもつ物質を探索する方法として、候補となる分子群(ライブラリー)を発生させ、その中から最適なものを探し出す方法があります。この研究では、歯車の形をした分子(歯車状両親媒性分子)を水に溶かすことで、6分子からなる箱形構造体(ナノキューブ)の配向異性体の平衡混合系(動的ライブラリー)を発生させ、そこへ箱形構造体に取り込まれる分子を加えると、加える分子によって動的ライブラリーから2種類の異性体をそれぞれ選択・増幅できることを発見しました。この選択・増幅は、(1) ナノキューブ内の歯車状分子の配向、(2) 取り込まれる分子の数、(3) 取り込まれる分子同士の配向といった多変数の最適化過程が鍵であることが明らかになりました。さらに、分子の形状のみならず官能基によっても選択・増幅の傾向が変化することもわかりました。動的ライブラリーにおける選択・増幅の多くは、取り込まれる分子が集合体を誘起するという一方向で起こります。一方、本研究によって、集合体と取り込まれる分子クラスターの双方向の最適化によって、より複雑な系のコントールを実現できることが明らかとなり、同様の最適化過程が自然界における分子選択においても働き、これを基盤として複雑な分子システムが創り上げられていると考えられます。