多種類の構成要素からなるかご形集合体の速度論による形成に関する論文(#109)を発表しました。
発表論文：Assembly of six types of heteroleptic Pd2L4 cages under kinetic control. T. Abe et al. J. Am. Chem. Soc. DOI: 10.1021/jacs.3c09359
分子自己集合は構成要素間の可逆な結合を介して生成するため、その多くは熱力学支配により進行します。熱力学支配では、生成物間の自由エネルギー差によってその分布が決まるため、構成要素の種類が増えると、生成しうる構造体の種類が増大し、単一集合体のみを生成することが難しくなります。一方、タンパク集合体の中には、多種の構成要素を段階的に組み込み、精度よく複雑集合体を形成するものが存在することが知られており、速度論支配が示唆されます。ここで浮かぶ疑問は、構成要素間の相互作用が可逆であるにもかかわらず、反応の帰結が速度論支配となることです。本研究では、2-4種類の二座配位子(L)を含む多成分Pd2L4およびPd4L8かご形集合体の速度論的形成の手法を開発し、その実現の鍵が「ローカルな可逆領域を持つ全体として不可逆なエネルギー地形 (Globally irreversible energy landscape with local reversibility)」であることを明らかにしました。このようなエネルギー地形では、熱力学支配における利点である誤った結合のエラー修復と、速度論支配における利点である準安定種であっても主生成物にできるという両方を実現可能で、自然界の自己集合の中にはこのような戦略でエネルギー地形の巧みな操作を行なっていると考えられます。
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