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歯車状両親媒性分子から形成されるナノキューブ

研究内容の解説[PDF]

van der Waals 力と疎水効果

 van der Waals 力は分散力というあらゆる原子間に働く引力的相互作用の寄与が主ですが,この力が化学結合の中で最も弱いことと,通常の化学結合(共有結合や配位結合)のような明確な方向性を持たないことから,物質構築の主な力として利用し,分子デザインすることが困難であると考えられてきました.一方,van der Waals力は自然界の様々な現象を理解する上で重要な相互作用の1つです.例えば,ヤモリが壁から落ちることなく体を支える力もvan der Waals力であることが最近の研究から明らかになってきました.また,タンパク質のフォールディング,サブユニット間の相互作用,糖とタンパク質の相互作用,さらに薬物とレセプター間の相互作用にもvan der Waals力が重要な役割を果たしていると考えられています.しかし,van der Waals力の深い理解やその効果を定量的に評価することが難しいため,その寄与は全く明らかにされてきませんでした.また,自然界の現象を理解する上で重要な疎水効果もvan der Waals力の理解と深い関わりがあります.水中で疎水分子は水のネットワーク構造をできる限り壊さないように集合しますが,この集合体の中でも疎水分子間にvan der Waals力が働いています.このため,集合体の形成は疎水効果と van der Waals力に支配されている訳ですが,これまで疎水分子の集合化は水の役割(疎水効果)がとても大きいと考えられてきました.しかし実際には,疎水効果と van der Waals力の寄与が明確にされないままこのような解釈がなされ定説となっています.我々の研究室では分子の噛み合いを正確に評価する手法の開発と分子の噛み合いにより集合化する新しい分子デザインを行い,これらの自己組織化を詳細に解析することにより,van der Waals力と疎水効果の寄与を明確にする研究を進めています.

分子の噛み合い

 van der Waals力はレナード・ジョーンズポテンシャルに代表されるように,距離の6乗に反比例する引力項と距離の9-12乗に反比例する反発項で表すことができます.引力項は主に分散力に由来するため,あらゆる原子間に働くたため広汎な利用が可能ですが,2つの原子間に働くvan der Waals力が弱くさらに方向性に乏しいことから,自己組織化の駆動力として分子デザインに組み込むことは困難であると考えられます.一方,自然界ではこの弱い力が多様されていますが,これはvan der Waals力が分子表面間の接触面積に比例するするためです.原子間では弱い力であっても,広大な接触面積を持てば,十分な安定化のエネルギーを獲得することができる訳です.従ってvan der Waals力を効率よく働かせるためには,接触面積を稼げるように分子表面をデザインすることになりますが,これはもっと簡単に考えれば「分子を良く噛み合わせる」ということと同じです.

 「分子の噛み合い」の良さは下の図のように模式図ABを見れば簡単に判断できますが,実際の分子表面は例えばCのようにとても複雑でどれほど噛み合っているか知ることは難しく,正確に分子の噛み合い評価するためには「分子の噛み合いの定量化が必要になりますが,そのような指針はまだ確立されていません

Research2

分子の噛み合いの模式図.赤い線は分子の表面を青い線は接触面を示す.

歯車状両親媒性分子

 分子の噛み合いを詳細に調べるためには,(1) 分子の噛み合いを駆動力として明確は三次元構造を形成し,(2) 十分な安定化エネルギーが得られるだけの広い接触面を持つ系の構築が必要不可欠です.我々の研究室では,歯車状の分子骨格に着目し,歯車が互いに噛み合いように分子が集合化することで,比較的小さな分子骨格からも広い接触面積を獲得し,安定構造を形成できることを見出しました.歯車状両親媒性分子の具体的な構造は6つのベンゼンが環ベンゼンに結合したヘキサフェニルベンゼン骨格に親水部と疎水部を導入したものです.この分子は歯車のように凹凸の疎水表面を形成し,この面が互いに噛み合うことでvan der Waals力が働くと期待されます.

gearmolecule
py3me

ナノキューブの形成

 歯車状両親媒性分子1はメタノール中では単量として存在していますが,水を加えていくと,自己組織化が起こり,メタノール:水 = 31溶媒中において箱型六量体を定量的に形成します.これは,歯車状両親媒性分子の凹凸の疎水表面を隠すように自己組織化し,一義的な箱形六量体(ナノキューブ)を形成するためです(J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 14368).溶液中におけるナのキュ―ブの構造は,1H, H-H COSY, NOESY, DOSY NMR測定およびESI-TOF mass測定から明らかとなりました.さらに,単結晶X線構造解析の結果,六つの歯車状分子が噛み合うように集まり,2 nmサイズの立方体を形成することが確認されました.このように,歯車状両親性分子の疎水表面をデザインすることで,一義的な自己組織化体を構築することが可能であることが示されました

 ナノキューブの構造は一見複雑です.どのように6つの分子が噛み合っているのか幾何学的情報を知りたい方は,展開図[ダウンロード]をご覧下さい.理解の助けになると思います.

 このように,歯車状両親媒性分子が噛み合った集合体では,単結晶X線構造解析の結果や,理論計算から求められた安定構造をもとに,各歯車状分子の相対配置を明確にすることができます.従って,自己組織化体の形成による分子の噛み合いを正確に解析することが可能となります.さらに,この箱型六量体のように,広い接触面積を持つ集合体では,十分な安定化エネルギーを獲得できるため,自己組織化に寄与するvan der Waals力を正確に求めることが可能となり,生体分子を始め多様な複雑分子表面間に働くvan der Waals力の特性の理解に繋がると期待されます.

 またこれまでに両親媒性分子から構成成分数とその空間配置が規定された自己組織化体形成した例は無く,方向性を持たないvan der Waals力であっても,精密に分子表面をデザインすることで精密な自己組織化体を形成できることが明らかとなり,これまで注目されてこなかったvan der Waals力を利用した物質開発が可能になると考えられます.

nanocube1
nanocube2
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ナノキューブ形成の駆動力

 歯車状両親媒性分子1を25%含水メタノールに溶解すると,ナノキューブへ自己組織化することが明らかとなりましたが,この自己組織化の駆動力がvan der Waals力に由来するとすればこの自己組織化はエンタルピー的に有利であるはずです.一方,疎溶媒的な効果により自己組織化している場合,エンタルピー駆動であると期待されます,そこで,1の六量体形成における熱力学的パラメータを求めることで,濃組織化の駆動力を明らかにしました.自己組織化の熱力学的パラメータは,等温滴定カロリメトリー(ITC)測定により求めました.その結果,会合体形成におけるΔH = –216 kJ/mol,ΔS = –354 J/mol/Kと見積もられ,エントロピー的に不利で,エンタルピー的に自己組織化体が形成されていることが明らかとなりました(Angew. Chem. Int. Ed. 48, 7006-7009, (2009)).従って,ナノキューブの形成にはvan der Waals力が駆動力として働いており,これは歯車状分子間の噛み合いに由来することが明らかとなりました.

 また,分子の噛み合いの重要性は同様の分子骨格をもつ歯車状分子2が自己組織化挙動を示さないという実験結果からも明らかとなりました,12の違いはメチル基の有無であり,1からメチルを取り除くことで分子の噛み合いが低下するために除自己組織化が起こらなかったと現在のところ考えています.このことは,横浜市立大学の立川研究室による電子相関を考慮した理論計算からも確認され,理論的にもvan der Waals力の重要性が明らかとなりました(Theor. Chem. Acc. 130, 1055-1059 (2011)).現在,さらに詳細にメチル基が自己組織化に及ぼす寄与について調べているところです.

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ナノキューブの包接挙動 

 ナノキューブの結晶構造を見ると,内部には芳香環水素で囲まれた疎水空間が形成されていることが確認されました.このため,ナノキューブの内部へ疎水的な分子が包接されると期待されます.実際,トリブロモメシチレン3を加えると二分子の3が内部に包接され,さらに,二分子の3はface-to-faceに配向していることが単結晶X線構造解析の結果から明らかとなりました.このように,ナノキューブは自己組織化体の形成と共に,ゲスト分子の抱接においてもvan der Waals力を有効に利用していることが明らかとなりました.

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四面体型構造の形成 

 ゲスト分子として置換芳香属分子を加えると,箱型集合体に二分子のゲスト分子が包接されましたが,これよりも小さく球状の分子を加えると,箱型六量体から四面体型四量体に構造変換することが明らかとなりました.四面体型構造への変換は,NMR測定,ESI-Mass測定および単結晶X線構造解析から確認されました.X線構造はゲスト分子としてアダマンタン4を包接した集合体について示されています.この構造変換の現象は,箱型六量体の内部の表面と球状ゲスト分子の表面の接触が低く(すなわち,分子噛み合いが悪く),この結果,集合体の形を変えることでゲスト分子との接触表面積を増やし全体としてより分子の噛み合いの高い構造を形成した結果であると考えられます.ここで興味深いことは,ゲスト分子の非存在下では四面体型四量体に比べ箱型六量体の方が分子の噛み合いは良く,一方,球状分子の存在下ではゲスト分子との接触面も合わせると,四面体型集合体の方が分子の噛み合いが良くなっていることで.このように,分子の噛み合いによ自己組織化の制御では,テンプレートとなる分子との噛み合いも加えることで,自己組織化のコントロールが可能となることが示されました.

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水溶性集合体の形成

 歯車状両親媒性分子1は25%含水メタノール中でvan der Waals力を駆動力として自己組織化体を形成を形成することが明らかとなりました.しかし,自然界では水中でvan der Waals力が利用されることが殆どです.また,生体系で利用可能な材料としての応用を考えると水中で自己組織化する物質を開発することで有用性は拡大します.そこで,1の箱型集合体の構造をもとに,新規歯車状分子のデザインを行いました.1のメチル基を水素に置換することで自己組織化体が劇的に不安定化される結果を参考に,1の必須構造を維持しつつ,水溶性の上昇を図りました.その結果,1の2カ所のピリジン環をN-メチル化した52+をデザインしました.52+はメタノール中では単量体として存在していますが,水に溶解すると,箱型六量体を形成することがNMR測定および単結晶X線構造解析の結果から明らかとなりました(J. Am. Chem. Soc. 132, 13223-13225 (2010)).結晶構造を見ると,ピリジン環はN-ピリジニウムに挟まれ,N-ピリジニウムが近接することはありませんでした.これは,静電的な反発を抑えるために分子が自発的に配列化したためであると考えられます.さらにこの構造体の安定性はとても高く,80 °Cの高温下においても一切解離は起こりませんでした.また,溶液の濃度を1 μMに低下 させても解離現象は全くは観測されず、会合体の安定性が極めて高いことが明らかとなりました.これは,分子の噛み合いに加え,水中における自己組織化のために疎水効果による安定化や,N-ピリジニウムとピリジン環の間の静電的な相互作用も寄与していると考えられます.

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東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 平岡研究室(機能超分子化学研究室)

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